ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
1.10.2008
床をサインボードとして活用する

マンハッタンを歩いていると、しばしば通りに面した店がその前の歩道の路面を宣伝メディアとして活用する例に出会う。比較的新しい事例で印象深いのが、ブルーミングデール・ソーホーの開業に際して見られたものである。ここでは開業を告知する手段のひとつとして、店の周辺の歩道の路面に「Happening in SOHO Bloomingdale’s 4.24.04」というフレーズを記したのである。これはニューヨーク市のニックネームである「ビッグ・アップル」にふさわしくグリーンのアップルカラーのチョークで描かれており、まさにそれはそのこと自体がハプニングであると同時に、ストリートアートとしての印象を与える。つまり、それはソーホーの地域特性である、アーティスティック、クリエイティブと重なり合う表現であり、この地域を愛する人々にとっては、『自分たちの感性を満たしてくれる』店が登場することへの期待を抱かせることに貢献するものとして効果を上げた。そういった意味では戦略的意図を持った告知施策であったと言える。

アメリカの百貨店や大型ファッション専門店を観察していると、歩道の路面を活用する手法は、路面から店内の床へと場所を変えて広がってきていることに気づく。例えば、新しく開発したショップの前の床に、その旨のメッセージとショップ(ブランド)名をプリントする形で記す。そこには床をメッセージボード、サインボードとして活用していく姿勢を感じ取ることができる。

特にこの手法を魅力的に活用しているのがバーニーズ本店である。ここではウイメンズストアではフロア内随所に、またメンズストアでは各フロアのエレベーター前の空間にVP(ヴィジュアルプレゼンテーション)スペースを設け、多数のマネキンを配置する形で構成し、その時々、この店が提案する旬のファッションをクローズアップ訴求している。そしてこのスペースの床にそのファッションのブランド名を大きく表記している。バーニーズと言えばエッジィモダン(先端を究める新しさ)を趣味性の基本にする店であり、それだけにこのスペースで訴求されるブランドはその時々の先端性を語る、店としての言わば見出しになるものである。

バーニーズ本店のメンズストアのVPスペースでの、今注目のデザイナーブランド、「ジェームス・パース」の訴求。

バーニーズのウイメンズストアのVPスペースでの床の活用。注目のブランド、「エラ・モス」の新しいブラックレーベルの訴求。

ひるがえって、店内の環境デザインの基本要素に天井、床、壁がある。いつも思うことだが、この要素のなかで顧客の視線からして最も重視すべきが床である。ごく自然に店内を歩いている際に顧客の視界にいやでも入り続けているのが床である。だから環境デザインをグレードアップするうえで床への気遣いはきわめて重要であり、顧客がその店の環境感度を判断していく際に床の占めている比率は高いのである。このことを改めて認識してみると、床を訴求ポイント、訴求ボードとして活用してみることの意義、効果が見えてくる。勿論、床に記すものはブランド名に限らない。その床の先に広がるMDゾーンのシーズンメッセージやホットトレンドを伝えるコピーを記す方法もあるし、ノードストロムのように、販売員からのメッセージをその販売員の名前入りで記す例もある。床の活用はPOPカードの性格を持つものへと応用、発展させることもできるのである。

床に表記するとなれば、それなりのスペースも取らねばならず、販売に割くスペースの減少という問題もある。しかし、こうした床の活用には着目してみる価値があるのではなかろうか。特に高感度を旨とする業態においては、顧客の気持ちを高揚させるうえでも意味があると思えるのである。





 

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