ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

10.25.2008
タイムレス・スタイル〜この時代に響く美のキーワード

ビューポイントで述べたように、聡明な消費をどう翻訳して購買意欲の喚起につなげていくかが問われている時代である。そのひとつが、時流を超えたクラシックという確信の持てるモノ、即ち「タイムレス・スタイル」を直感させるモノに出費することへの着目である。その点への意識を持ってニューヨークを歩いていて目に留まるのがブルックス・ブラザーズである。言うまでもなく、このファッションブランドの持ち味は「紳士淑女の美の正統的表現」にあり、時流を超えたものであるが、今ニューヨークの店においてはそのことを強く自覚した打ち出しをしているように思われる。ウインドウでのヴィジュアルプレゼンテーションを見ていると、「半世紀前もそうであったように、これからの半世紀もこの上品なスタイルが変わることはない」といった自信に満ちた声が聞こえてきそうである。

タイムレス・アメリカン・スタイルを意識させるブルックス・ブラザーズのウインドウ。

もっとも、ニューヨークでブルックス・ブラザーズが輝いて見えるようになったのは今に始まったことではない。振り返ってみると今世紀に入って間もなくのあたりからだろう。背後には、新しい秩序を意識しつつ全体的にドレスアップを意識する動きと連動してのエレガンス志向の高まり、生き方に見るサクセス志向やエスタブリッシュメント志向の高まりという大きく二つの要因があった。そしてこれら二つの志向に応えるように再び表舞台に登場したのがプレッピースタイルであり、右代表として輝きのある存在になったのがブルックス・ブラザーズだったのである。そのプレッピースタイルが今、聡明な消費を意識するなかで、永いつき合いのできるスタイルという一面が評価されつつ、タイムレス・スタイルを志向する動きと結びついてさらなる広がりを見せようとしているのである。

聡明な消費とファッション意識、さらには美意識。そのことを考えるなかで取り上げてみたい事例が、グリニッチビレッジにあるバナナ・リパブリックによる新店、「モノグラム・ストア」である。バナナ・リパブリックでは、紳士物については昨秋から、婦人物については今春から、「モノグラム」と名付けた新しいラインを発表しており、この新店はこのラインだけで構成する店である。紳士物、婦人物共にテイラード・スタイルを基本にするもので、明快にビジネスシーンを意識したドレスアップ色の強いものになっている。また、素材も作りもより上質で、それにふさわしく、価格も全体に従来のバナナ・リパブリックよりも三割程度高い設定になっている。
バナナ・リパブリックの「モノグラム・ストア」。


「モノグラム」のニオイは「都会の粋」と呼びたいもので、ニューヨーカーをはじめとする都市生活者を惹きつける魅力があることを直感する。その鍵になっているのが、クラシックでありながらモダンな味わいが漂うデザイン性である。ちなみに、「モノグラム」のクリエイティブ・ディレクターは元ブルックス・ブラザーズのデザイナー、サイモン・ニーンであり、そのデザイン精神はクラシック・スタイルをベースに現代感覚を融合することにある。「モノグラム」を見ていると、その点での絶妙のサジ加減を感じ取ることができる。つまり、時流を超越して永続するという確信を与えながらも、けっして退屈にさせることのない、あるいは飽きさせることのない、輝きのようなものがある。

タイムレス・スタイルに感性を刺激される時代と言えるだろう。それは聡明な消費を志向するなかで惹かれる美である。即ち、そういった美やその美を持ち味にするブランドが聡明な消費への意識を刺激する力を持つということでもある。





 

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