9.10.2008
『教養度の高い暮らしのキューレーター』に注目

二酸化炭素の排出が地球規模の問題になることに加えて、日々の生活での支出をいかに抑えるかが課題になる経済環境にあって、生活者が意識するのが聡明な消費である。その聡明な消費への意識を刺激することが購買につながる時代であるが、その視点から注目しておきたいクリエイターがインテリアデザイナーの中原慎一郎さんである。中原さんは、用の美を提唱する民藝、そしてモダンデザインの祖であるイームズから大いなる影響を受け、現代にふさわしい品性を感じさせる、シンプリシティを旨とするデザインのプロダクトを手がけている人物である。また、その活動領域は広く、自身が代表を務めるランドスケープ・プロダクツで家具・雑貨のデザイン、店舗・住宅の内装などを行うほか、千駄ヶ谷を中心に複数のショップ経営も手がけている。その核になっているのがインテリアショップ「プレイマウンテン」で、ここでは中原慎一郎によるオリジナル家具をはじめ、世界の工藝品、新進デザイナーの作品などが幅広く取り上げられている。

手がけるショップのなかで高い魅力を感じさせるのが、キッズライフをテーマにするグッドデザインショップ「チゴ(CHIGO)」である。広尾駅から恵比寿に向かう交通の便が悪い立地にありながらファンを集めるこの店は、国内外の新進デザイナーによる子供服から、良質な木製玩具、デザイナーによるキッズファニチャー、そしてアーティストによるフィギュアやヌイグルミまで幅広いアイテムが揃える。興味深いのは、この店のファンの多くが30代の親で、しかもインテリア好きというプロフィールを持ち、中原慎一郎さんの審美眼とそれに基づく商品セレクションに共鳴していることである。

「チゴ」が展開している商品に、例えば、70年以上の歴史を持つ、デンマーク人デザイナー、カイ・ボイセンによる木目の美しい愛嬌のある動物の人形がある。この人形はデンマークでは今も祖父母が孫に最初に与える玩具の定番として国民的支持を得ている。また、ベビーチェアとしての機能と大人のスツールの機能を併せ持つ、フィンランド生まれの「リンキハイチェア」、スウェーデン発のクラシカルですっきりとしたラインが特徴の「タス(tuss)」やラグジャリーな素材とシンプルなデザインが融合する英国発の「キャラメル・ベビー・チャイルド」などの男女児服もある。このように、時代を超えて愛され続けている長命長寿商品と、新進気鋭のデザイナーの商品が同時に並んでいるといったように、セレクトの際の尺度や審美眼には独自のものがある。

この「チゴ」もそうだが、中原慎一郎さんの活動に共通していると感じられるのが、用の美や実質的価値を尊ぶ姿勢と審美眼であり、それによってもたらされる品性である。そこには日常に密着していながら教養を刺激する要素がある。聡明な消費を志向する動きの中で、「教養ある」暮らしがぼんやりとではあるが意識され始めている。中原慎一郎さんは『教養度の高い暮らしのキューレーター』として、生活意識、ひいては消費価値観におけるリーダーとして注目されるのである。