ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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2.7.2012
手芸用品はファッション雑貨〜店作りの新しい視点

料理作りに続いて数年前から関心の高まってきている趣味活動が手芸である。背後要因は実に様々あるが、なかでも重要なのが、家庭生活そのものを創造的な趣味活動として、センスや能力の表現の場として深め、楽しんでいく動きが大きくなっていることだ。その結果生み出される、日頃の暮らしにまつわるほぼすべては「作品」になり、そうした「作品」はブログなどで誰でも気軽に「発表」することができる。そうして発表の場を持つことが創造的な趣味活動としての家庭生活をさらに刺激的なものにし、手芸などの手仕事は料理作りと並んでそのような暮らしの重要な要素として意識されるのである。

こうしたなか、手芸を愛好する女性たちに長年にわたって支持されてきた有力手芸用品専門店による、初心者対象の新型店開発が活発化し、それらは居住地に立地する商業施設に必需の店になっている。ところで、手芸が従来にない新しい広がりを見せてきている背後には、手芸に取り組む人たちにいろいろなタイプが出てきていることがある。そのなかで注目すべきが、手芸的楽しみに興味があるが、趣味として深めたり技術を向上させたりすることには関心が薄いタイプ。このタイプにとって大切なのは、1にセンス、2に簡単にできること。ちょっとした小物の類を自分で縫う、既製の服やバッグにリボンやレースやワッペンを付けるといったぐあいに、センスとアイディアさえあれば、手芸にまつわる技術など皆無であっても、ごく短時間で「自分だけの、手作り感あるカワイイもの」を作ることができる。それでいて「手作りした」という達成感も十分にある。

「リド」。


言い換えれば『ちょこっと手作り』を楽しむということであり、この期待に応えることが新たな注目店を生み出すことになる。その具体的視点になるのが、手芸パーツのなかでもボタンやワッペンやリボン、カット布など、手芸の習熟度に関係なく手作りが楽しめるパーツ類を中心とした品揃えをすることである。この点での興味深い事例が玉川高島屋SCの「リド」。ここは手芸パーツやファブリックをデザイン的視点から評価し、ヨーロッパを中心とする世界各地からセレクトして展開する、手芸パーツとファブリックのブティックである。とりわけヴィンテージ品のセレクションに魅力と特色があり、手芸ファンでなくても美的好奇心や蒐集意欲をそそられる。

手芸用品も展開するファッション専門店「ネニル」(二子玉川ライズ)ではシャツのポケットや布バッグに縫い付けて楽しむものとしてレースモチーフも提案。


その点で一見の価値があるのだが、この店はまるでステーショナリー店でステッカーやポストカードを買うように、まったくの未経験者でも気軽に手芸パーツ選びを楽しみ、買うことのできる品揃えがなされているところに重要な特色がある。実際、リボンやレース、ボタン、ワッペン、レースのミニモチーフなど、習熟度に関係なく気軽に手作り感が楽しめるアイテムが商品構成の大半を占めている。また、ファブリックもそれ自体にまるで一枚の絵画のような美的存在感があることで、例えば端を縫うだけで簡単に自分だけのランチョンマットやトートバッグを作ることができる。

さて、こうして手芸は生活者にとってファッションともつながりを持って受け止めたいものになってきており、レースやリボン、ボタン、ミニプレート、レースモチーフといった手芸用品が一種のファッション雑貨としてのメッセージと刺激を持つものになるという注目すべき動きが出てきている。そこでファッション専門店のなかには、手芸用品をMDゾーンとして組み込んだ新しい店作りをする例も出てきている。手芸用品がこれまでのファッション商品以上にファッションを語る時代になってきているのである。




 

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