ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

1.8.2010
「期間限定展開」が購買意欲を刺激する

消費大低迷が続くなか、マンハッタンを歩いてみると、商売を続けることができず消えていく店が次々に出てきており、空き店舗が増えていることに気づく。特に小資本の単独展開店舗が犠牲者になりやすく、なかでも、才能はあるが金はない無名の若手ファッションデザイナーが自分の店を出すことで特色付けられてきたノーリタ(ソーホーの東、リトルイタリーの北に広がる地区)はまさに歯抜け状態で、一年ちょっと前までの活気が嘘のように感じられる。見方を変えると、それほどまでにファッションが売れないということでもあり、デザイナーが悲鳴を上げている時代である。

この点に応えてのことだが、昨年の5月に若手デザイナーを支援する試みが話題になった。これはマンハッタンにあるバスターミナルの商業ゾーンで以前から空き区画になっている物件を1ヶ月間の臨時店舗として活用し、そこで若手デザイナーの商品を週替りで取り上げていこうというもの。ずばり「セイブ・ファッション」を店名にするこの店では、1ヶ月間で60を超えるブランドが取り上げられ、いずれも50%引きで販売された。

ところで、この「セイブ・ファッション」はニューヨークのマーケッターにひとつのヒントを与え、予期せぬブームを創り出すことになった。それは空き店舗をポップアップストア(展開期間限定の臨時店)として活用するアイディアであり、夏から秋、さらには冬へと、「ポップアップストア」ブームと呼べる状況が見られるようになってきているのである。例えば、ディスカウンターのターゲットがアナ・スイとのコラボレーション企画による「アナ・スイ・フォー・ターゲット」を、グッチが人気DJでありミュージシャンであるマーク・ロンソンとのコラボ企画によるスニーカーの店を、ニューヨークのファッションデザイナー、レイチェル・ロイが自分のコレクションの中でもより低価格のものを展開するといったように。

白と黒を基調にした婦人ファッションSPAで全米に300店を展開する「ホワイトハウス・ブラックマーケット」のポップアップストア。ソーホーの一等地にある。

生活者は、予想を超えた場所で予想を超えたモノと出会うと、反射神経が働くように、買いたい、買っておかねば、という気持ちになるものだ。そして、あちらこちらに出現してはすぐに消えていく、神出鬼没と言えるポップアップストアにはそういった購買刺激効果があることに改めて気づく。しかも結構な売上げを作ることができるわりには少ない経費で運営できる。消費低迷が続く中でどうやって過剰在庫を処分するかという点からの動機もあろうが、こうしてポップアップストアへの需要はかつてないほど高まっている。そこで、不動産業者のなかには、一時的賃貸スペースをポップアップストア向けに常設で運営するところも出てくる。このように、空き区画のポップアップストアとしての運営は商業用不動産において創出可能な新たな市場として注目されているのである。

消費低迷が新たなビジネスチャンスを一方で生み出しているというのは興味深いことであるが、小売店にとってポップアップストアを活用した『神出鬼没型マーケティング』はまだしばらくの間ブームとなると考えられる。同時に、それは消費が回復して消え去るのではなく(ブームは去るだろうが)、刺激創造のうえでの活用価値のある手法として永続していくと予測できるのである。





 

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